溶連菌、すなわち溶血性連鎖球菌は小児の咽頭炎や皮膚感染症の原因となる菌です。
迅速検査で診断できるため、クリニックでも診断・治療が可能であり小児にとって身近な感染症です。
溶連菌の感染後に、いくつかの合併症がおこることが知られています。
溶連菌と診断されたあとに、尿検査をした経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、溶連菌感染症の特徴、治療、そして合併症について解説します。
溶連菌とは
溶連菌の正式名称は、『溶血性連鎖球菌』といいます。
連鎖球菌とは、「鎖状に連なっている球状の菌」という見た目から命名されています。血液寒天培地という培地の上で溶血性を示すことから『溶血性連鎖球菌』と呼ばれています。
血清型によってA群からV群までの種類があり、主に小児で問題となるのはA群とB群です。
A群溶連菌による疾患
咽頭炎・扁桃炎
小児の咽頭炎の原因として最も多いのはウイルス感染ですが、細菌感染による咽頭炎の原因として最も多いのは溶連菌です。咽頭炎の15-30%が溶連菌によるものと言われています(1)。
年齢としては、9歳以下が84%を占め、5歳児が最多(9.4%)という報告があります(2)。
季節としては冬から春、初夏にかけて多くみられます。感染経路は唾液や鼻水を介してうつる飛沫感染で、潜伏期は2-5日間程度です。
症状は、発熱、のどの痛み、首のリンパ節の腫脹、いちご舌、扁桃腺の腫脹などです。のどに白苔という、白いべったりしたものが見られることもあります。
咳、鼻水などの症状はみられないこともあります。
治療としては抗菌薬の内服が行われます。抗菌薬を使わなくても自然に熱が下がることもありますが、抗菌薬により①発熱期間の短縮、②咽頭痛など症状の軽減、③合併症であるリウマチ熱の予防、④扁桃周囲膿瘍など続発証の予防、が期待できます。
伝染性膿痂疹(とびひ)
伝染性膿痂疹は、一般的にとびひと呼ばれる皮膚の感染症です。飛び火のように体のあちこちに症状が広がることからついた呼称です。
とびひ 日本皮膚科学会(実際の皮膚の写真がありますので、苦手な方はご注意ください)
学童以降に多く、アトピー性皮膚炎はリスク因子とされています(3)。
症状としては、皮膚の水疱(水ぶくれ)や痂皮(かさぶた)を形成したりします。
熱は出ることも出ないこともあります。
診断は発疹の見た目や経過によって行われます。ときに血液検査や皮膚の培養検査などが行われますが、診断に必須ではありません。
治療の第一は、皮膚をきれいにすることです。入浴時にシャワーでしっかり汚れを落とす、石鹸を泡立てて湿疹部位や正常皮膚を洗う、といったことが重要です。
感染を広げないためには、患部を触らない、爪を短く切る、タオルなどの共有を避ける、などの対策をとります。
症状が強い場合は、抗生物質の外用薬(ぬり薬)を使うこともあります。治療期間は5日間を目安としますが、皮膚の状態により10-14日間程度の治療が必要となることもあります(1)。症状が改善したように見えても、短期間の使用でぶり返すこともあるため、医師の指示を守って治療しましょう。
蜂窩織炎・丹毒
蜂窩織炎、丹毒はいずれも皮膚の細菌感染症です。
丹毒は主に真皮を中心とした感染、蜂窩織炎は真皮から皮下組織におよぶ感染をいいます。
見分けるのが難しいこともありますが、一般に丹毒は皮膚の浅いところに感染が起きているため、皮膚の赤い部分が境界明瞭に見えることが多いです。一方で、蜂窩織炎は皮膚のより深くに感染が起きているため、赤い部分と正常皮膚の境界がはっきりしないことが多いです。
症状としては、皮膚が赤く腫れ、熱をもったり痛みが出たりします。
時に透明な滲出液や、黄色い膿が出ることもあります。
治療としては抗生物質の内服、あるいは点滴を行います。治療期間は一般的に5-7日間程度です。
症状が軽度であれば外来で内服加療が可能なこともありますが、範囲が広い、炎症の数値が高いなどの場合は入院の上で点滴での治療が必要なことがあります。
劇症型溶連菌感染症(人食いバクテリア)
劇症型溶連菌感染症とは、急激に発症・進行して多臓器不全に至る最重症の溶連菌感染症です。
メディアでは「人食いバクテリア」という病名で取り扱われることもありますが、そのような名前の微生物が存在するわけではありません。
2024年5月現在、劇症型溶連菌感染症が増加傾向にあると報道されています。
致死率は30-60%と極めて高い疾患です(7)。
小児においては水痘(水ぼうそう)がリスクと言われており、水痘にかかったあとに4日以上発熱が続く場合は、劇症型溶連菌感染症を考慮した方がよいとされています。
症状としては発熱、咽頭痛、消化管症状(食欲不振・嘔吐・下痢)、だるさなど様々です。
発熱に加えて、皮膚や皮下組織の激しい痛みや水ぶくれがある、腫れが急速に広がるなどの症状があった場合は注意が必要です。
劇症型溶連菌感染症が疑われた場合は、すみやかに抗菌薬治療を開始し、必要に応じて集中治療も行っていく必要があります。
溶連菌と診断されたら、登校・登園はいつから?
溶連菌感染症は、学校保健安全法に指定されている学校感染症です。
抗菌薬による治療を開始してから24時間以上が経過して、全身状態がよければ登校・登園可能となっています。『全身状態が良ければ』というのは、発熱やその他の症状がないこと、ととらえてよいでしょう。
抗菌薬開始後、24時間以内に感染力がなくなるとされているのが登校禁止期間の根拠です。
溶連菌に感染した後の合併症
溶連菌に感染したあと、時間をあけて合併症が出現することがあります。
代表的なものに、溶連菌感染後糸球体腎炎とリウマチ熱があります。
1. 溶連菌感染後糸球体腎炎
糸球体腎炎とは、血尿、タンパク尿、高血圧、浮腫(むくみ)などをきたす腎臓の病気です。
溶連菌に感染したあと、2-4週間程度あけて糸球体腎炎を発症することがあり、これを溶連菌感染後糸球体腎炎といいます。
溶連菌に感染した後、腎炎を発症するお子さんは約2%以下といわれています(3)。
なお、抗菌薬で適切に予防しても溶連菌感染後糸球体腎炎を予防することはできません。
どんな病気か
主に学童期のお子さんに多く、患者さんの数は年間で小児10万人あたり0.3人と報告されています(4)。
溶連菌による咽頭炎から2-4週間、皮膚の感染症からは3-6週間ほどあけて発症します。
溶連菌感染後糸球体腎炎が起こる理由としては、簡単に説明すると溶連菌に対する免疫反応が自分の腎臓組織にダメージを与えるためです。
どんな症状か
血尿はほぼ必発です。そのうち、はっきりと目で見てわかる程度の血尿(肉眼的血尿)は24-40%にみられます。また、タンパク尿は80%程度にみられます。
そのほか、顔や手足の浮腫(むくみ)、高血圧、尿量低下などがみられます。
血尿というと、真っ赤な尿を想像する方が多いと思います。しかし実際には、茶褐色の『コーラ色』の尿であることも多いです。
どのような検査をするか
一般的な血液検査、尿検査のほか、溶連菌にかかっていたことを確かめるために迅速検査や培養検査を行います。
どんな治療をするか
溶連菌感染後糸球体腎炎は、基本的には予後のいい自然軽快する疾患です。
そのため、基本的には安静にして経過観察となります。血圧が高い場合には降圧薬の内服を行います。
蛋白尿が持続する場合や、血液検査の異常(低補体血症など)が持続する場合には、腎生検といって腎臓の組織を採取して顕微鏡で観察する検査をおこなったうえ、根本治療を行うことがあります。
どのくらいでよくなるか
血尿は2-3年続くこともありますが、最終的には自然によくなることがほとんどです。
末期腎不全にいたる割合は2%未満と報告されています(4)。
急性糸球体腎炎|東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター
溶連菌にかかったあとの尿検査について
溶連菌と診断された後に、尿検査をうけるように指示されることがあります。
これは、溶連菌感染後糸球体腎炎の早期発見のためです。
しかし、溶連菌感染後糸球体腎炎のうち、検査の異常で発見されることよりも、血尿や浮腫などの症状から発見されることの方が多いという報告もあります。
また、溶連菌にかかっても腎炎を発症する人はごくわずかであること、尿検査の時期や回数にはっきりしたエビデンスがないこと、などから溶連菌にかかったあとの尿検査については本当に必要か、という意見も出てきています。
重要なことは、『溶連菌にかかったあとには血尿や浮腫などの腎臓の症状が出てくるかもしれない』と認識しておくことだと筆者は考えます。
2. リウマチ熱
どんな病気か
リウマチ熱とは、溶連菌に感染したあとに数週間から数か月後に発症する、炎症性疾患です。
発熱のほか、心臓、関節、神経など、様々な症状をきたします。
比較的珍しい疾患であり、患者数は年間10例程度と報告されています(6)。
どんな症状か
関節炎は約70%の患者さんにみられます。膝、肘、手首、足首などの大きな関節に現れることが多いです。2-3週間で後遺症なく治ることが多いです。
心臓の症状(心炎)は約半数の患者さんにみられます。心雑音、心臓弁逆流などの症状があり、ときに重症心不全となることもあります。心臓の炎症が慢性化することはありませんが、弁膜症が残存することがあります。
そのほか、輪状紅斑と呼ばれる発疹、舞踏病と呼ばれる不随意運動、皮下の結節などがみられます。
どんな治療をするか
症状に応じた治療を行います。
関節炎に対しては解熱鎮痛薬、心炎に対しては利尿剤や降圧薬を用います。場合によりステロイド薬なども使われることがあります。
どのように予防するか
リウマチ熱の予防のためには、発症してから9日以内に抗菌薬による治療を行うことが推奨されています(6)。
抗菌薬による治療期間は一般的に7日間~10日間で、症状が改善しても飲み切る必要があります。
溶連菌の保菌について
小児の5-20%はのどに溶連菌を保菌していると言われています。保菌とは、『菌はいるけれども悪さはしていない』状態です。私たちの口の中や皮膚の表面には無数の細菌、すなわち常在菌がいますが、普段は悪さはしていません。
常在菌まで抗菌薬でやっつけようとすると、もともといた悪さをしていない菌がいなくなって、悪い菌が増えてしまったりします。これを菌交代現象といいます。
そのため、症状がないときに溶連菌の検査をする必要はありません。あくまで、熱や咽頭痛などの症状があるときに溶連菌の検査をする意義があると言えます。
まとめ
溶連菌について
・溶連菌は、咽頭炎や皮膚感染症の原因となる菌である
・唾液や鼻汁を介して感染する飛沫感染で、潜伏期は2-5日間
・咽頭炎では7-10日、蜂窩織炎では5-10日間の抗菌薬治療を行う
・診断後は、抗菌薬を開始してから24時間たって症状が改善していれば登校・登園可能
・合併症として糸球体腎炎、リウマチ熱があり、特にリウマチ熱は抗菌薬治療で予防できるため重要である
参考文献
- 西順一郎:わが国における溶連菌感染症の疫学.小児科 59(11):1501-10, 2018.
- 国立感染症研究所感染症疫学センター:特集 溶血性レンサ球菌感染症 2012 年 ~2015 年 6 月.IASR 36:147‒149,2015.
- 小児内科 vol 54 増刊号, 1328-1330, 2022.
- 小児内科 vol 53 増刊号, 491-494, 2021.
- 小児科臨床 60 (11) 2087-2090, 2007.
- 小児内科 vol 53 増刊号, 878-882, 2021.
- 小児内科 vol 52 増刊号, 831-835, 2020.