以前の記事で、誤飲事故のうち窒息・気道異物について解説しました。
今回は消化管異物、すなわち異物が食道や胃に入った場合について解説します。
消化管異物は、胃まで通過してしまえば、多くの場合そのまま排泄されます。
大事な点は、「なにを飲み込んだら危険なのか」を知っておくことです。
消化管異物の原因
消化管異物の原因の多くは無機物です。
食物が消化管に入る分には、消化管異物とは言いませんから当然といえば当然です。
厚労省の2018年の報告では、原因の第一位がタバコ(20.8%)、第二位が医薬品(17.4%)となっています。
タバコ | 130 | 20.8% | 金属製品 | 41 | 6.5% |
医薬品・ 医薬部外品 | 109 | 17.4% | 硬貨 | 19 | 3.0% |
食品類 | 77 | 12.3% | 洗剤類 | 18 | 2.9% |
玩具 | 67 | 10.7% | 文具類 | 16 | 2.6% |
プラスチック製品 | 44 | 7.0% | 電池 | 11 | 1.8% |
厚労省 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000193024_00003.html
また、広島県の病院の小児外科を受診した消化管異物216例の内訳は以下のようになっています。
硬貨 | 64例 | パチンコ玉 | 8例 |
ボタン電池 | 37例 | ビー玉 | 6例 |
釘 | 13例 | 安全ピン | 5例 |
プラスチック | 10例 | 碁石 | 5例 |
鋲 | 9例 | 磁石 | 5例 |
金属片 | 9例 | 胃石 | 2例 |
針 | 8例 | その他 | 36例 |
日本臨床外科学会雑誌 61(7), 1698-1703, 2000
上記の調査結果では、原因は硬貨が多く、次いでボタン電池となっています。
以外にも、丸くてつるっとした飲み込みやすいものだけでなく、釘や鋲、針など鋭利なものの誤飲も少なくないことがわかります。
『こんな見るからに危ないものは飲み込まないだろう』とはいかないのです。
消化管異物の経過
胃まで通過すれば、ほとんどは無症状に排泄
そもそも消化管とは、口に始まり、食道、胃、小腸、大腸と続き肛門につながる一連の臓器をさします。
口から食道に入った異物は、胃まで通過すると95%はそのまま肛門まで排泄されると言われています(1)。
また、胃まで通過した異物のほとんどは無症状で、穿孔(消化管に穴があいてしまうこと)は1%未満といわれています。
起こりうる症状としては、嘔吐、腹痛、食欲低下、嚥下痛、嚥下困難などがあります。
乳幼児では、直径2.5cm以上のものは排泄されない恐れがあります。
参考までに、500円玉は直径約2.6cmです。
食道にひっかかった場合は要注意
食道にひっかかった場合も、3割は無症状です(1)。
起こりうる症状としては、嘔吐、よだれ、嚥下痛、嚥下困難などです。
また、食道内の異物が気管を圧迫することで咳や喘鳴(ぜーぜーすること)などの症状も起こりえます。
食道異物は、原則として緊急での摘出の適応となります。
緊急で摘出が必要な場合
①食道異物
食道異物は、可及的速やかに摘出することが原則です。
特に、ボタン電池は1時間以内に粘膜障害が出現し、4時間以内に穿孔にまで至る恐れがあるため大変危険です。
無症状かつ、硬貨や鋭利なものでないものに限り、24時間以内の経過観察を行うことも可能とされています。
②大きいもの・尖ったもの・磁石
これらは粘膜障害や、穿孔をきたすリスクが高い異物です。
具体的には、以下のものが緊急摘出の適応となります。
③コイン電池、ボタン電池
コイン電池、ボタン電池は粘膜に接すると、数分で放電をはじめ、やがて粘膜障害・穿孔を引き起こします。
ボタン電池による粘膜障害の危険性については、以前に教えてドクター佐久のTwitterアカウントでの投稿が衝撃的です。
わずか2時間で、消化管粘膜に見立てたベーコンが黒く焦げています。
異物ごとの対応
①ボタン電池
前述の通り、ボタン電池は基本的に緊急摘出が必要です。
ボタン電池のうち、もっとも危険なのはリチウム電池です。
型番により電池の種類を把握することができ、BR・CR・GRはリチウム、LRはアルカリ、SRは酸化銀です。
ボタン電池を誤飲してしまった場合は、飲んでしまったと思われるものと同一のものを持参すると種類が判断しやすくなります。
②磁石
磁石を複数飲んだ場合、消化管粘膜を磁石が挟み込んで、粘膜障害や穿孔を引き起こす恐れがあります。
消費者庁からは、マグネットボールによる事故についての注意喚起がなされています。
③鋭利な異物
鋭利な異物には、明らかに鋭利なもの、鋭利ではないが消化管粘膜を挟みうるものがあります。
前者は針や画鋲、安全ピン、薬剤のPTPシートなど、後者にはバッグクロージャーやクリップなどがあります。
「こんな見るからに危なそうなものは飲み込まないでしょ?」と思われるかもしれませんが、前述の通り針や画鋲などの誤飲事故も実際に少なくありません。
④コイン・硬貨、その他鈍的異物
コインは、消化管異物のなかでも大きな割合を占めます。
最も大きい500円玉は直径約2.6cm、最も小さい1円玉でも直径約2.0cmです。
基本的には、硬貨のような鈍的な異物(鋭利でないもの)は、胃まで通過してしまえば排泄される可能性が高いです。硬貨は胃腸内に長期間滞在しても、腐敗や分解の心配はほぼありません。
異物の排泄時期は、ほとんどが4-6日以内ですが、3-4週間かかることもあります(1)。
誤飲の予防
子どもの口の大きさは、約4cmと言われています。
目安としては、トイレットペーパーの芯を通るものは誤飲のおそれがあると考えられます。
また、誤飲チェッカーという市販品も確認に有用です。
また、家庭環境の整備も重要です。
つかまり立ちができる程度の1歳児でも、意外なほど広範囲のものを手に取ることができます。
まとめ
以上、消化管異物について解説しました。
消化管異物は、多くの場合そのまま肛門から排泄されます。
しかし、食道にとどまっている場合や、針や電池、磁石など危険なものを飲み込んだ場合は緊急摘出が必要になります。
異物誤飲で受診をされる場合は、飲み込んだと思われるものを持参すると、一緒にレントゲンに写すことで診断の一助になることがあります。
誤飲事故は予防がなにより大事ですが、事故がおきてしまった際の対応についても改めてご確認ください。
参考文献
- 小児科診療, 81(11):1579-1586, 2018
- 政府広報オンライン 「えっ?そんな小さいもので?」子供の窒息事故を防ぐ!