こどもはよく熱を出します。
しかし、「はじめてこどもが熱を出した」「熱が40℃まで上がって、脳への影響が心配」「熱があって苦しそうだけど、受診した方がいいの?」など、子育てをしていると熱で心配になる状況は多いでしょう。
小児科医にとって、発熱はよく出会う症状です。こどもの患者さんの受診理由の中で、発熱がもっとも多い理由です。
それだけに、病院を受診して「このくらい大丈夫」といった素っ気ない対応をされたご経験のある親御さんもいらっしゃるかもしれません。
本記事では、こどもの発熱について解説します。
発熱の原因
ネルソン小児科学という小児科医のバイブルには、発熱は小児の外来受診でもっとも多い訴えであると書いてあります。
小児は2歳になるまでに、平均4-6回の発熱のエピソードがあると言われています。外来を受診する小児の約75%は感染症の患者であり、多くが発熱を伴っています。
感染症の内訳としては約75%が呼吸器感染症(鼻、のど、気管、肺などの感染症)であり、多くはウイルスによる風邪です(1)。
UpToDateという医師向けの臨床情報サイトには、「6歳未満のこどもは、年に平均6-8回風邪を引き、症状は平均14日間続く」とあります。
こどもにとって、発熱は非常に身近な訴えと言えます。
発熱の原因となる疾患としては、以下があげられます。
中には専門的で難しい用語もありますが、やはり一番多いのは感染症です。
●発熱の原因となる疾患(文献(1)より)
・感染症
・川崎病
・膠原病
・血液疾患/悪性腫瘍
・脱水
・環境温度由来
・中枢神経障害
・その他(薬剤熱、甲状腺機能亢進、心因性)
・こどもは2歳になるまでに、平均4-6回熱を出す
・6歳未満のこどもは、年に6-8回熱を出す
・熱の原因の多くは感染症で、特にウイルスによる風邪が多い
注意すべき発熱とは
注意すべき発熱とは、「命にかかわる」「後遺症が残る可能性がある」ような疾患です。
発熱をきたす疾患のいくつかは、入院での治療が必要となることがあります。
生後3ヵ月未満の発熱
生後3ヵ月未満の児は免疫機能が未熟であり、細菌やウイルスなどの病原体に対して脆弱な状態です。
3か月未満の発熱のうち、約10%に重症細菌感染症が含まれており(2)、菌血症が2.4%、細菌性髄膜炎が0.5%、尿路感染症が5.4%、肺炎が3.3%を占めるという報告があります(3)。
・菌血症…血液中に細菌が入り込んでいる状態
・細菌性髄膜炎…脳を覆う髄膜に細菌感染を起こした状態
・尿路感染症…おしっこの通り道である膀胱や腎臓に感染を起こした状態
・肺炎…肺に細菌感染を起こした状態
特に、生後1か月未満(生後0日~30日)の新生児は原則入院が必要となります(明らかにこもり熱である場合などは例外)。
生後1ヶ月から3ヶ月(生後31日から90日)の乳児の場合、症状、哺乳状況、検査結果などをふまえて入院が必要かを判断します。
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎とは、頭蓋骨と脳の間にある髄膜に感染が起きた状態をいいます。
発熱、頭痛、嘔吐などの症状がみられますが、小児では典型的な症状が揃わないことも多いです。
「なんとなく元気がない」「不機嫌」「ぐったりしている」などの症状のみで発症することもあります(5)。
原因として肺炎球菌やHibが多く、予防接種の普及により大幅に患者さんが減った病気です。
以下のPfizer社のサイトで、細菌性髄膜炎について詳しく説明されています。
細菌性髄膜炎について|子どもと肺炎球菌.jp
川崎病
川崎病は、1967年に川崎富作博士が発見した原因不明の疾患です。
全身の血管に炎症が起きることで、発熱を含む6種類の主症状が出現します。
- 発熱
- 眼球結膜の充血
- 口唇の紅潮といちご舌(いちごのように真っ赤な舌)
- 発疹・BCG接種部位の発赤
- 手の紅斑と腫脹
- 頚部リンパ節腫脹
治療は免疫グロブリンという点滴とアスピリンという飲み薬が中心です。
合併症として心臓の血管にコブができることがあり(冠動脈瘤といいます)、予防のためには早期に熱を下げることが重要と言われています。そのため、原則として診断がついた時点で入院が必要な病気です。
尿路感染症
尿路感染症は、膀胱や腎臓といったおしっこの通り道に細菌が入り、感染を起こした状態です。
熱以外の症状が出ないことも多く、熱の原因が不明な小児の約5%に尿路感染症があるという報告もあります(5)。
尿路感染症を繰り返すと、腎臓にダメージが残る可能性があります(瘢痕化)。
また、治療の遅れも瘢痕化につながるおそれがあります。尿路感染症になったお子さんの7.2%に腎瘢痕が見つかったという報告があります。腎臓の瘢痕化を防ぐためには、早期に診断して適切な抗生剤治療を行うことが重要です(6)。
急性虫垂炎
急性虫垂炎は、俗に盲腸とも呼ばれる病気です。
虫垂とは、大腸の一部である盲腸から生えているしっぽのような器官です。
ここに細菌が繁殖して膿が溜まった状態が虫垂炎です。虫垂炎は抗生剤のみで改善することもありますが(俗に「散らす」といいます)、症状が強い場合は手術が必要な病気です。
症状は発熱、腹痛、嘔吐などで、胃腸炎と見分けがつかないときもあります。
典型的な経過としては、まずはみぞおちが痛くなり、徐々に右下腹部に痛みが移動していきます。
以下に、日本小児外科学会の情報を記載します。
急性虫垂炎- 一般社団法人 日本小児外科学会
熱性けいれん
生後6か月から6歳の児は、発熱に伴いけいれんが起こることがあります。これを熱性けいれんといいます。
けいれんが起きたときの様子を以下のイラストに示します。
けいれんは、多くの場合5分以内に自然に止まります。
しかし、けいれんが自然に止まらない場合もあります。けいれんが5分以上続く際はただちに救急車を呼びましょう。
けいれんが止まらない(けいれん重積状態)、けいれんを繰り返す(けいれん群発状態)では、入院が必要となることがあります。
注意点として、発熱+けいれんが全て熱性けいれんではありません。
髄膜炎、脳炎、敗血症なども発熱+けいれんをきたすことがあります。これらの病気の可能性が除外できて初めて熱性けいれんといえます。
①初めてのけいれんの場合、②けいれんが止まっていても様子がおかしいと感じた場合、にはかかりつけの受診をおすすめします。
受診の目安
NICEガイドラインというイギリスのガイドラインでは、以下のような発熱の児をハイリスクとしています。
緑:低リスク | 黄:中リスク | 赤:高リスク | |
---|---|---|---|
皮膚色 | ・正常 | ・保護者から見て蒼白 | ・蒼白/まだら/灰色/チアノーゼ(5) |
活動性 | ・反応がある ・笑顔 ・起きている/すぐに起きる ・強い泣き声/泣かない | ・普段より反応が乏しい ・笑顔なし ・長時間の刺激しないと起きない ・活動の減少 | ・反応しない ・医療者に具合が悪そうに見える ・起きない、または覚醒してもすぐに眠る ・泣き声が弱い、甲高い、泣き止まない |
呼吸器 | – | ・鼻翼呼吸(1) ・頻呼吸(2) ・酸素飽和度≤95% ・肺呼吸音の異常 | ・呻吟(6) ・呼吸数>60回/分 ・陥没呼吸(7) |
循環と水分補給 | ・正常な皮膚と目 ・口腔粘膜の湿潤 | ・頻脈(3) ・CRT(4)≥3秒 ・口腔粘膜の乾燥 ・乳児の摂食不良 ・尿量の減少 | ・皮膚ツルゴールの低下(8) |
その他 | ・黄/赤信号の徴候がない | ・生後3〜6か月で39℃以上 ・5日以上の発熱 ・悪寒手足や関節の腫れ ・体重を支えない、手足を使用しない | ・生後3か月未満で38℃以上 ・紫斑 ・大泉門膨隆 ・項部硬直 ・けいれん重積状態 ・部分的な神経学的異常 ・部分発作 |
1) 鼻をひくひくさせる呼吸のこと
2) 6-12か月:50回以上/分、1歳以上:40回以上/分
3) 1歳未満:160回以上/分、1歳以上2歳未満:150回以上/分、2歳以上:140回以上/分
4) 毛細血管充満時間:爪などを押し、色が戻るまでの時間
5) 唇や指先が青紫色になること
6) うなるような呼吸のこと
7) 肋骨の下や鎖骨の上がへこむような呼吸のこと
8) 皮膚のハリがなくなった状態のこと
専門用語も多くやや難解ですが、特に重要と思われる所見については下線をひきました。
まとめると、受診の目安としては以下があげられます。
・発熱が4-5日以上続く(ただの風邪ではない可能性がある)
・水分が摂れず、尿量がいつもより少ない(脱水の可能性がある)
・呼吸が速い、または呼吸の仕方がおかしい(感染症や、呼吸・循環の異常の可能性がある)
・生後3-6か月で39℃以上、生後3か月未満で38℃以上(重症な細菌感染の可能性がある)
意外に思われるかもしれませんが、NICEガイドラインでは、生後6か月以上のこどもは熱の高さだけではハイリスクになりません。
熱の高さよりも、「水分が摂れておしっこが出ているか」「呼吸が普段と変わりないか」「低月齢でないか」の方が重要であるといえます。
発熱 Q&A
Q1. 熱が40℃ありますが、脳への影響はありますか?
A1. 41℃以下では脳への影響はないと考えられます。
発熱による脳への影響を心配する保護者の方は多いです。
しかし、42℃を超える発熱でなければ脳への影響は心配ないと言われています(7)。
岡本光宏先生のブログ記事もご参照ください。
Q2. 解熱剤はどのように使ったらいいですか?
A2. 熱を下げるためだけに使う必要はありません。
上述のNICEガイドラインでは、解熱剤について以下のように述べています。
1.6 解熱剤の介入
1.6.4 熱で苦しそうに見えるこどもには、アセトアミノフェン(原文ではパラセタモール;同じ成分です)またはイブプロフェンのいずれかを使うことを検討してください
1.6.5 体温を下げることだけを目的として解熱剤を使用しないでください。
NICEガイドライン [NG143]
すなわち、寝苦しさや食欲低下など、熱による悪影響がみられる場合に解熱剤を使い、ただ熱を下げる目的だけのために解熱剤を使うことは推奨されない、ということです。
熱が何℃以上だったら解熱剤を使った方がいいですか?
熱の高さだけで解熱剤を使うかは判断しなくて大丈夫です。
熱が40℃でも、本人が元気で食欲もあり、寝れているようなら使う必要はありません。
逆に熱が38℃でも、寝苦しそう、あるいは食欲がないようであれば熱を下げることで楽になる可能性があります。この場合は解熱剤を使ってあげてもいいでしょう。
解熱剤が効かない場合は重症ということですか?
解熱剤が効くかどうかで、重症細菌感染症と軽いウイルス感染症を区別することはできないと言われています(8)。
飲み薬と坐薬はどっちがよく効きますか?
どちらでも解熱効果や効果発現速度には明らかな差はないようです。
以下のほむほむ先生・アシュア先生のブログ記事もご参照ください。
解熱鎮痛薬は、坐薬と内服、どちらがより効果的?:メタアナリシス
解熱薬、優れているのはどれ? 座薬 VS 粉薬 VS シロップ
Q3. 体は冷やした方がいいですか?
A3. 冷やすことで体温が下がるという強い根拠はありませんが、不快感を除く可能性はあります。
欧米では、ぬるま湯に浸したスポンジで体を拭くという冷却法が浸透しています。
NICEガイドラインではこの方法は推奨されていません。
また、布団を被せて発汗させて熱を下げるという方法も特に医学的根拠はありません。
逆に、裸にしておくという方法も推奨はされていません。
市販の冷却シートも、体温自体を下げる効果はありません。
2004年には、冷却シートによる0歳児の窒息事故も起きているため、使用には十分な注意が必要です。
まとめると、熱を下げるための物理的な方法で強い根拠のあるものはありません。
ただし、これらの冷却方法により、お子さんの苦痛が取り除かれる可能性はあります。
Q4. 熱があるときにお風呂に入ってもいいですか?
A4. 脱水や高熱がなければ入ってもよいと思われる
よく、「熱があったらお風呂に入ってはいけないんですか?」と聞かれます。
結論としては、脱水があったり、高熱でぐったりしている場合を除けば、入浴は問題ないと思われます。
イタリア小児科学会のガイドラインでは、「熱を下げる目的の」入浴については推奨されていませんが、入浴による具体的なデメリットについては言及されていません(9)。
私見になりますが、①熱があっても元気があり、②水分が摂れていて脱水がなく、③体温以下のぬるま湯で短時間の入浴、という条件であれば問題はないと考えています。
以下の岡本光宏先生のブログもご参照ください。
受診に迷ったら
これまでの内容を読んで、受診に迷う方もいらっしゃることと思います。
その場合、日本小児科学会監修のこどもの救急ONLINE、あるいは佐久医師会監修の教えて!ドクターのサイトが有用です。
まとめ
発熱はこどもにとってよくある症状です。
多くはウイルス性の風邪で自然によくなりますが、年齢や症状によっては受診が必要なことがあります。
今回の記事では、注意すべき発熱、受診の目安をご紹介しました。
お子さんが熱を出した際の対応として、参考にしていただければ幸いです。
参考文献
- 小児内科 52(10), 1319-1324, 2020
- American Family Physician 2007; 75: 1805-1811.
- JAMA 2004; 291: 1203-1212.
- 小児内科 48 (増):282-286, 2016.
- 日本小児腎臓病学会雑誌 27 (2), 105-116, 2014
- JAMA Prdiatrics 2016; 170(9): 848-54.
- Pediatrics 1984; 74: 929-936.
- ネルソン小児科学 第19版
- Journal of Pediatrics 2017; 180: 177-183
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