ベビーオイルについて

  • URLをコピーしました!

赤ちゃんの保湿に用いられることの多いベビーオイル。世界各地で古くから行われているスキンケアです。
ご自身でオイルによる保湿を行っている方もいらっしゃるかもしれません。

一方で、近年明らかになってきたアレルギー発症の仕組みに『経皮感作』というものがあります。これは、「肌荒れの部位に食品成分が付着することで食物アレルギーのリスクがあがる」という仕組みです。

ベビーオイルを塗ることはアレルギーのリスクとなるのでしょうか?また、それ以外のリスクはあるのでしょうか?

今回は、ベビーオイルについて解説します。

目次

保湿剤の種類:エモリエントとモイスチャライザー

ベビーオイルを使う目的としては、保湿が最も多いと思われます。
すなわち、広義の保湿剤としてベビーオイルが用いられるわけです。

保湿剤には大きく分けて2種類あり、「エモリエント」「モイスチャライザー」と呼ばれます。
用語は難しく聞こえますが、指している内容は複雑ではありません。

・エモリエント…皮膚に膜を張って、水分の蒸散を防ぐもの。ワセリンなど。
・モイスチャライザー…水分の蒸散を防ぐことに加え、保湿成分も含むもの。ヘパリン類似物質(ヒルドイド)など。

エモリエントとモイスチャライザー
引用:あなたがスキンケアに使っているのは「エモリエント」? それとも「モイスチャライザー」?(保湿剤シリーズ①)
筆者:堀向健太
https://medley.life/news/6008e4ecac8ed5450302c222/

上記の分類で言えば、ベビーオイル(オリーブオイル、ココナッツオイルなども含む)はエモリエントに分類されることになります。

ベビーオイルの種類:ミネラルオイルと植物性オイル

ベビーオイルには、大きく分けてミネラルオイル(鉱物油)と植物性オイル(植物油)があります。
ミネラルオイルは石油から精製されたオイル、植物性オイルは植物の果実や種子などから採取したオイルです。
両者の特徴をみていきましょう。

ミネラルオイル(鉱物油)

ミネラルオイルは、石油から精製されたオイルです。
エモリエントの代表であるワセリンも、同じく石油から精製された物質であり、両者の違いは固体か液体かという点です。

ミネラルオイルの特徴として、以下の点があげられます。

石油から作られたオイルって、体に悪いんじゃないですか?

精製されたミネラルオイルは、植物性オイルと比較して安定性が高く酸化しにくいという特徴があります。
皮膚からの吸収はほとんど起こらないため、皮膚や内臓への悪影響の報告もなく、リップケア商品からの経口摂取も問題ないとされています(1)。

ミネラルオイルに発がん性があると聞いたのですが?

欧州の保健機関でミネラルオイルに含まれるMOAH(芳香族化合物)に発がん性のあるPAH(多環芳香族炭化水素)が含まれているという報告がありました(2)。
しかし、カナダ保健省によれば、精製されたミネラルオイルやワセリンにはこれらの発がん性物質は検出されないか、0,00001%未満の微量であったという報告があります(1)。
精製された製品を使用するのであれば、ミネラルオイルによる発がん性は無視できると考えてよいでしょう。

植物性オイル(植物油)

植物性オイルは、植物の果実や種子などから採取されたオイルです。
オリーブオイル、ココナッツオイル、ヒマワリオイル、アーモンドオイル、ピーナッツオイル、ごま油など、様々な種類があります。

世界各地で古くから現地の作物による植物性オイルが、保湿やマッサージの目的で使用されています。古くは古代エジプトの時代まで遡るともいわれています。

一方で、1990年代以前には植物性オイルに関する大規模な研究はほとんどなく、2010年ごろから徐々に報告が集まってきたという状況です。

アレルギーの発症機序:経皮感作と経口免疫寛容

ベビーオイルについて論じる前に、アレルギーの発症機序について解説します。
近年、アレルギーの発症機序として、二つの経路があるという仮説が有力です。

従来は、食べ物を食べることでアレルギーを発症すると考えられていました。そのため、食物の除去が治療として行われていました。

しかし、2008年のイギリスの論文で「湿疹の皮膚に食べ物がつくとアレルギーを発症する方向に働くが、口から食べ物を摂取するとアレルギーを抑える方向に働く」という説が提唱されました。前者を「経皮感作」、後者を「経口免疫寛容」といいます。この二つの機序をあわせて、「二重抗原曝露仮説」といいます。

・経皮感作…湿疹などがある皮膚に食べ物が付着すると、アレルギーを発症する方向に働く
・経口免疫寛容…食べ物を口から摂取すると、アレルギーを抑える方向に働く

経皮感作

2008年にイギリスで発表された論文で提唱された考え方です。
イギリスでは、新生児の入浴後に皮膚にオイルを塗る習慣があります。しかし、湿疹のある児にピーナッツオイルを配合したスキンケア製品を使用すると、乳児期のピーナッツアレルギーの発症が6.8倍増加したという報告があります(3)。

湿疹のある部位は皮膚のバリア機能が低下しており、そこに異物である食物成分が付着することでアレルギーを発症しやすくなってしまうのです。これを経皮感作といいます。

また、日本でもごま油の塗布によるごまアレルギー(4)、アーモンドオイルの塗布によるアーモンドアレルギー(5)などが報告されています。

経口免疫寛容

2015年にイギリスで発表された論文で示された考え方です。
アトピー性皮膚炎のある乳児に対して、ピーナッツを食べ始めるグループと除去するグループに分けたところ、ピーナッツを食べ始めたグループの方がピーナッツアレルギーの発症率が約7分の1(13.7% vs 1.9%)になった(6)という報告です。

すなわち、消化管を介して食物を取り込むことで、アレルギーが起こりにくくなるわけです。これを経口免疫寛容といいます。

植物性オイルのデメリット?①:経皮感作

上記の経皮感作の解説を読んでいただくとわかるとおり、植物性のオイルを皮膚、特に湿疹や肌荒れのある部位に塗ることはアレルギーを発症するリスクとなる恐れがあります。

以前に、小麦成分を含む石鹸により、何人もの使用者が小麦アレルギーを発症したという事件がありました。

植物性オイルのデメリット?②:皮膚の成熟を遅らせる恐れ

やや専門的な話になりますが、植物性オイル(今回の報告ではヒマワリの種のオイル)の塗布により、皮膚の脂質構造の発達を遅らせるかもしれないという報告がありました。

この報告をもって「オイルの使用が皮膚の成熟を遅らせる」と断定するのは早計ですが、このようなリスクが示唆されていることは知っておいた方がよいかもしれません。

植物性オイルのデメリット?③:接触性皮膚炎

植物性オイルは天然成分由来ですが、その全てが人体にとって安全なわけではありません。アレルギー反応が起こらなくても、天然成分による接触性皮膚炎(かぶれ)が起こる可能性があります。

日本国内では、ベビーマッサージのアーモンドオイルによる接触性皮膚炎(7)のほか、成人ではラベンダーオイル(8)、オリーブオイル(9)などによる接触性皮膚炎の報告があります。

アレルギーと異なり、誰にでも起こりうるという点に注意が必要です。

ベビーオイルについての筆者の考え

ベビーオイルについては、上記のような懸念点があります。
そこで、ベビーオイルに対する筆者の考えを述べます。

まず、ベビーオイルの使用目的が保湿であるなら、保湿剤(ワセリンなど)を用いた方が無難かもしれません。保湿目的でのワセリンの使用は、不適切な取扱いによる感染などのリスクを除けば副作用はほとんどないと思われます。

また、保湿効果としてはエモリエント(ワセリンなど)よりもモイスチャライザー(ヒルドイドなど)の方が有効という報告もあります。

また、ベビーマッサージなどでオイルを使用する際には、植物性オイルよりもミネラルオイルの方が安全な可能性があります。
経皮感作や接触性皮膚炎のリスクが低く、製品自体の安定性もあるためです。

ベビーオイルについてはまだ大規模な研究が少なく、確実なことはあまり言えません。エビデンスの集積が待たれるところです。

まとめ
・植物性オイルには、①経皮感作、②皮膚機能の成熟の遅れ、②接触性皮膚炎、などのリスクがあるかもしれない
・食品成分を皮膚に塗ることはアレルギー発症のリスクとなる
・筆者の考えとしては、保湿目的なら保湿剤、オイルマッサージに使うならミネラルオイルの方がよいかもしれない

参考文献

  1. Chuberre B, et al. Mineral oils and waxes in cosmetics: an overview mainly based on the current European regulations and the safety profile of these compounds. J Eur Acad Dermatol Venereol 2019; 33 Suppl 7:5-14.
  2. Scientific Opinion on Mineral Oil Hydrocarbons in Food
  3. N Engl J Med 2003 Mar 13;348(11):977-85.
  4. 日本小児アレルギー雑誌 2021;35:228-232.
  5. アレルギー 2008;57(9-10):1487.
  6. Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy N Engl J Med 2015; 372:803-813
  7. アレルギー 2011;60(9-10):1385.
  8. 日本皮膚免疫アレルギー学会雑誌 2018;1(3):219-225.
  9. アレルギー 2010;59(9-10):1463.
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

大学病院の小児科に所属する、現役小児科医です。
小児科医としての臨床経験を生かして、エビデンスに基づく情報発信をしています。
ご意見、ご感想などありましたらお問い合わせフォームからご連絡ください。

目次
閉じる