マイコプラズマは、正式名称をMycoplasma pneumoniaeといい、呼吸器感染症の原因となる微生物です。4年周期で流行を繰り返すことが知られており、オリンピック肺炎とも呼ばれています。
2024年の夏から冬にかけて、マイコプラズマ感染症の大流行がみられています。
その前の流行は2016年で、2020年はCOVID-19の流行、感染対策により流行が抑えられたものと考えられます。
マイコプラズマ感染症は学童に多く見られ、発症のピークは7-8歳ごろと言われています。一方で、幼児期における感染も稀でもなく、その場合は肺炎というよりも咽頭炎や気管支炎の病態が多いと言われています。
マイコプラズマの特徴は長引く乾いた咳で、解熱後も3-4週間ほど続くことがあります。また、そのほかにも中枢神経症状、皮膚症状、消化器症状などがみられることがあります。
今回は、マイコプラズマの症状、診断、治療について解説します。
この記事のポイント
・マイコプラズマは、幼児から学童を中心に流行する呼吸器感染症である
・4年おきに流行を繰り返しており、2024年は過去最大の流行が見られている
・潜伏期が2-3週間、感染可能期間が4-6週間と長いことから集団流行しやすい
・咳症状は月単位で長引くこともあり、長引く咳
・中枢神経症状、皮膚症状、消化器症状など様々な肺外症状を引き起こす
・一般的な抗菌薬が効きにくく、マクロライド系などの抗菌薬による治療が必要
マイコプラズマとは
マイコプラズマとは
マイコプラズマとは、正式名称はMycoplasma pneumoniaeといいます。
細菌の一種ですが、細胞壁という構造がないという普通の細菌とは異なる特徴を持ちます。
マイコプラズマは主に上気道炎(風邪)や気管支炎などの呼吸器感染症をきたし、約10%は肺炎になると言われています(1)。市中で起こる肺炎の10-20%を占めると言われ、特に6歳以上の学童においてマイコプラズマ肺炎の頻度が高いです。
人は一生に一度はマイコプラズマに感染すると言われていますが、終生免疫を獲得することはなく複数回の感染を起こすこともあります(2)。
よく見られる年齢は幼児から学童にかけてで、7-8歳に発症のピークがあります(3)。
2007年から2017年にかけて、米国でマイコプラズマ感染症で入院した小児の約半数が6歳未満でした(4)。一方で、肺炎の原因菌に占めるマイコプラズマの割合は年齢とともに上昇します。
年齢 | 肺炎入院患者のうちマイコプラズマが原因の割合 |
---|---|
2歳未満 | 2% |
2歳~4歳 | 5% |
5歳~9歳 | 16% |
10歳以上 | 23% |
マイコプラズマの特徴
マイコプラズマは、細胞壁を持たない特殊な細菌です。
一般によく使用されるセフェム系抗菌薬は、細胞壁の合成阻害効果により殺菌能を示すため、マイコプラズマには無効です。
感染経路は飛沫感染と接触感染です。咳嗽による飛沫などから感染します。
潜伏期間は2-3週間と長い傾向にあります(1)。
また、感染可能期間(ほかの人に移る期間)も4-6週間と長いため、周囲への流行が起こりやすい病原体といえます(3)。
マイコプラズマの流行時期
マイコプラズマ肺炎は感染症法の五類感染症に指定されています。
1984年と1988年に大規模な流行がみられ、それ以後4年おきに流行が見られたことからオリンピック肺炎とも呼ばれています。ただし、近年この周期は崩れつつあります。
直近では、2016年に大規模な流行がみられました。
4年後の2020年は、COVID-19の流行による感染対策の影響で流行が抑えられていたと思われます。
そして2024年現在、マイコプラズマの大流行が見られています。
定点あたりの報告数は、2024年9月時点で1999年の観測開始史上、過去最大となっています。
マイコプラズマの症状
1. マイコプラズマの症状
マイコプラズマに感染しても、多くは無症状です(4)。
初期症状は発熱、頭痛、咽頭痛、咳などの症状です。発熱は5日程度続きます。
多くは上気道炎(いわゆる風邪)や気管支炎の病型をとり、肺炎をきたす例は10%程度です。
咳症状が長引くのが特徴で、解熱した後も3-4週間続くことがあります。
鼻炎症状は典型的ではありませんが、幼児ではみられる頻度が高いです。
2.マイコプラズマの合併症
マイコプラズマは、呼吸器以外にも多彩な合併症(肺外症状)が見られます。
PCR検査でマイコプラズマと診断された小児の26%に肺外症状がみられ、11%は肺外症状のみであったという報告があります(4)。
系統 | 合併症 |
---|---|
呼吸器疾患 | 中耳炎、副鼻腔炎 |
皮膚疾患 | 多型紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群 |
神経疾患 | 髄膜炎、脳炎、ギランバレー症候群 |
消化器疾患 | 肝炎、膵炎 |
血液疾患 | 溶血性貧血、血小板減少性紫斑病 |
心血管疾患 | 心筋炎 |
筋骨格疾患 | 関節炎 |
中枢神経症状
中枢神経(脳や脊髄)の症状は、マイコプラズマ感染者全体の約0.1%、入院患者の約6%にみられます(4)。
中枢神経の合併症としては、以下のような疾患があります。
皮膚症状
皮膚や粘膜の発疹は、マイコプラズマ感染症でよくみられます。
マイコプラズマに感染した方のうち、6-17%に皮膚症状を認めるという報告があります(3)。
皮膚症状の重症度は様々です。
一般的には皮膚が赤くなったり、水ぶくれのような発疹がみられます。
重症な場合は、スティーブンスジョンソン症候群といって発熱、粘膜疹、全身の皮疹などを示し入院を要することもあります。
消化器症状
マイコプラズマ感染症では、腹部の症状も見られます。
オーストラリアの研究では、マイコプラズマ感染症で入院したお子さんのうち、以下のような消化器症状が見られました(4)。
マイコプラズマ感染症による消化器症状
・腹痛、下痢、嘔吐…38%
・肝酵素の上昇…10%
・重篤な消化管障害(膵炎、腸重積、肝脾腫など)…3%
これまで述べてきたように、マイコプラズマ感染症では呼吸器以外にも様々な症状が引き起こされることがわかります。
マイコプラズマの診断
マイコプラズマの診断法
マイコプラズマの診断法としては、抗原診断法と血清診断法に分けられます。
・抗原診断法…気道に付着したマイコプラズマ抗原を検出する
・血清診断法…血中のマイコプラズマ抗体を検出する
マイコプラズマに感染してから血中マイコプラズマ抗体が検出されるまでには時間がかかるため、早期の診断には抗原診断法が適しています。
マイコプラズマの抗原診断法
抗原診断法には、イムノクロマト法と遺伝子検出法があります。
イムノクロマト法は、インフルエンザや溶連菌などのように簡易キットにより抗原を検出する診断法です。
遺伝子検出法は、検体に含まれる病原体の遺伝子を増幅して検出する診断法で、LAMP法とPCR法があります。
イムノクロマト法(迅速抗原検査)
インフルエンザなどと同じように、検体から抽出した液を診断キットに垂らし、陽性または陰性を判定します。クリニックなどで行われることが多いのはこの検査です。
イムノクロマト法の問題点としては、マイコプラズマの増殖部位は咽頭(のどの奥)よりさらに奥の下気道(気管、気管支、肺)であることです。検査の際に綿棒でこする咽頭には、マイコプラズマは下気道の1/100程度しか存在しないという報告もあります(6)。また、イムノクロマト法はPCR法と比べて感度が60%~80%程度と低い点にも注意が必要です(6)。
検査の時期としては、咳が出現して3日以内は菌量が少ないため検出が難しいとされています。
マイコプラズマの検査では、咽頭後壁(のどの奥の壁)をしっかりとこする必要があります。少しでも奥から検体を採取することで、検査の精度をあげることができます。
PCR法(Qプローブ法)
PCR法は、Polymerase chain reaction法の略です。
検査の原理としては以下のような手順です。
①DNAを加熱し、二本鎖DNAを一本鎖に分離する:90-95℃
②DNAとプライマーを結合させる(アニーリング):50-60℃
③DNAを延長させる:70-75℃
上記の反応を繰り返し、DNAを増幅します。
PCR法(Qプローブ法)のメリットは、1時間程度という短い検査時間と、治療薬であるマクロライド系抗生物質への耐性の有無も判定できるという点です。
LAMP法
LAMP法はPCR法と同じく遺伝子を増幅する検査法です。
PCR法との違いは、温度変化を必要とせず65℃程度の一定温度で反応させるため、より短時間で検査を行うことができます。所要時間は約30-60分間です。
LAMP法では、抗生物質への耐性の判定はできません。
培養検査
検体に含まれるマイコプラズマを培養する検査です。検査方法としては最も確実と言えます。しかし、マイコプラズマを培養するには、特殊な培地が必要であること、検査結果が出るまでに2-3週間程度の時間を要することから臨床の現場で用いるのはあまり現実的ではありません。
マイコプラズマの治療
前提として、マイコプラズマは自然治癒することもある疾患です。
一方で、発熱が持続する、咳嗽が強いなどの場合は抗菌薬治療が必要となります。
マイコプラズマに対する抗菌薬治療
マイコプラズマは抗菌薬による治療が行われます。
一般的に使用されることの多いβラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系など)はマイコプラズマに対して無効です。
マイコプラズマに対して有効なのは、マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系などの抗菌薬です。
第一選択は、マクロライド系の抗菌薬(クラリス、ジスロマックなど)です。
抗菌薬の種類 | 商品名(例) | |
---|---|---|
マイコプラズマに無効 | ペニシリン系 | サワシリン、ワイドシリン、クラバモックスなど |
セフェム系 | ケフラール、ケフレックス、フロモックス、メイアクトなど | |
マイコプラズマに有効 | マクロライド系 | クラリス、ジスロマックなど |
ニューキノロン系 | オゼックスなど | |
テトラサイクリン系 | ミノマイシンなど |
マクロライド耐性マイコプラズマについて
一時期、風邪に抗菌薬、特にマクロライド系の抗菌薬が多く使用された経緯があり、2012年ごろにはマクロライド耐性マイコプラズマが80-90%と非常に増加しました。近年では、抗菌薬の適正使用の働きかけもあり、2018-2020年は20-30%と改善傾向です(5)。
マクロライド系の抗菌薬を開始しても、72時間以内に発熱などの症状の改善がない場合はマクロライド耐性マイコプラズマを考える必要があります。
マクロライド耐性のマイコプラズマに対しては、ニューキノロン系、テトラサイクリン系などの抗菌薬を用いて治療を行います。
ニューキノロン系抗菌薬…オゼックス(一般名:トスフロキサシン)
テトラサイクリン系抗菌薬…ミノマイシン(一般名:ミノサイクリン)
などが用いられます。
注意点として、テトラサイクリン系抗菌薬は、8歳未満の小児に使用した場合、歯が黄色くなるという不可逆的な副作用が起こりえます。
状況によりやむを得ず使用することはありますが、もし8歳未満のお子さんでテトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシンなど)を処方された場合は、副作用について相談してみましょう。
ステロイド
重症なマイコプラズマ肺炎に対しては、ステロイドの投与が行われることがあります。
マイコプラズマ感染症では、免疫反応が過剰になることで重症化をきたす例がまれにみられます。そのような際に、ステロイドの投与が有効であると考えられています(7)。
発熱が7日以上続くような場合はステロイドの治療効果が期待できるという報告もありますが、どのようなケースでステロイドが有効かどうかについては結論がでていません。
まとめ
マイコプラズマは、主に小中学生などに起こる長引く発熱やしつこい咳を特徴とする呼吸器感染症です。
2024年12月現在、学童を中心に大流行がみられています。
マスクや手洗いなど適切な感染対策を行うことが重要です。
長引く発熱やしつこい咳など、マイコプラズマ感染症を疑う症状が見られた場合は、お近くの医療機関で相談しましょう。
参考文献
- 小児内科 52巻増刊号 936-941(2020.11)
- 小児科診療 86巻増刊号 167-170(2023.04)
- 国立感染症研究所 マイコプラズマ肺炎とは
- Up to date Mycoplasma pneumoniae infection in children
- 小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方 日本小児科学会
- Kawai Y, et al., Antimicrob Agents Chemother 57: 4046-4049, 2013
- 長谷達也ら:肺炎マイコプラズマ感染症診断における迅速抗体検査と迅速抗原検査のLAMP法との比較 . 日赤検査 2016 ; 49 ; 72 -75 .
- 日本小児科学会 小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方