風邪の自然経過について、別記事で解説しました。
今回解説するのは、のどの痛みがメインとなる病気です。
のどの痛みがあると食事や水分が摂りにくくなり、ときに保護者の方を困らせます。
溶連菌性咽頭炎
概要
溶連菌は、溶血性連鎖球菌という細菌の略称です。
健康なお子さんの15-20%はのどに溶連菌を保菌しています。溶連菌は皮膚にも存在し、傷口から感染をすると蜂窩織炎という病気になります。
溶連菌は、5歳をピークに4-9歳の小児で最も多く検出されます(呼吸器感染症診療ガイドライン)
風邪(上気道炎)はほとんどがウイルス感染であり抗菌薬は不要です。しかし、溶連菌による咽頭炎は上気道炎で唯一抗菌薬治療の対象となります。
症状
発熱、のどの腫れが一般的な症状です。
まれに、猩紅熱(しょうこうねつ)という発熱・イチゴ状の舌、発疹などの特徴的な症状が出てくる病気があります。
猩紅熱(しょうこうねつ)はどのような症状ですか?| 皮膚科Q&A
治療
溶連菌性咽頭炎は自然に改善する病気でもあり、約3-5日で解熱します(1)。
しかし、溶連菌性咽頭炎に対しては抗菌薬治療が行われます。それには以下の理由があります。
溶連菌性咽頭炎の治療の目的(小児感染症の診かた・考えかた(医学書院)より)
・化膿性合併症の予防…扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍など、のどに膿が溜まる病気の予防
・免疫学的合併症の予防…リウマチ熱の予防効果あり(溶連菌感染後糸球体腎炎については予防効果のエビデンスなし)
・発熱期間の短縮…抗菌薬治療で、発熱期間を24時間以上短くする
・周囲への感染拡大防止…無治療では6週間にわたり感染が続くが、抗菌薬治療で24時間以内に80%が除菌される
溶連菌を疑うのは、「発熱と咽頭痛があるが、咳・鼻水がないとき」です。
溶連菌には迅速検査があります。疑った場合は検査を行い、陽性であれば抗菌薬治療を行います。
逆に、溶連菌でない咽頭炎(のどの風邪)には抗菌薬は必要ありません。
米国のガイドラインでは、3歳未満では溶連菌性咽頭炎は稀であり、合併症であるリウマチ熱も稀であるため検査はしなくていいとしています(2)。ただし、兄弟姉妹や保育園で溶連菌にかかっている子がいる場合は、検査を考慮してよいとも述べています。
出席停止期間・登校/登園の目安
抗菌薬治療を始めて24時間以降は感染力は消失するため、登校・登園は可能となります。
Q&A
リウマチ熱ってどんな病気ですか?
聞いたことがないんですが…。
リウマチ熱とは、溶連菌に感染した2-4週間後から心臓の炎症、関節症状、神経症状、皮膚症状などが出現する病気です。
平成17-20年の調査で報告されたのは26症例と、稀な疾患です(3)。
リウマチ熱の予防には、適切な抗生剤治療が必要です。
溶連菌にかかったら、尿検査をした方がいいと聞きましたが?
以前は、溶連菌に感染した後に血尿などの症状が出る(腎炎)ため、感染後に尿検査を行っていました。
しかし、近年では①腎炎を起こす人の割合が0.04%程度と稀なこと、②腎炎自体の予後は良好なこと、③むくみや明らかな血尿の症状で気づかれることも多いことなどから、尿検査は必須ではないという意見もでてきています。
溶連菌性咽頭炎を疑うのはこんなとき
・発熱・咽頭痛があって咳・鼻水がないとき
・周囲に溶連菌にかかっている子がいるとき
・年齢は3歳以上が多い
溶連菌性咽頭炎で注意する点
・感染後に、まぶたのむくみや尿が赤くなるなどの症状が出てこないか注意しましょう
アデノウイルス咽頭炎
概要
アデノウイルスは咽頭炎、結膜炎、胃腸炎、出血性膀胱炎などの原因となるウイルスです。
アデノウイルスによる咽頭結膜炎は、通称「プール熱」ともいい、夏に多い感染症です。
アデノウイルスは小児の呼吸器疾患の原因で多いものであり、ほとんどの子どもが10歳までに1度はアデノウイルスに感染すると言われています(4)。
特にアデノウイルス咽頭炎は乳児や未就学児でみられやすいことが知られています。
症状(咽頭炎、咽頭結膜熱)
発熱、咽頭痛、鼻汁、眼の充血、目やになどがあります。
発熱は3-5日程度のことが多いです(5)。つまり、一般的な風邪が通常3日以内に解熱するのに比べ、発熱期間は長くなります。
治療
アデノウイルスには特定の治療はありません。自然によくなる疾患のため、対症療法が基本となります。
また、感染力が強いため、手洗いの励行やタオルなどの共有を避けることも感染予防のために重要です。
出席停止期間・登校/登園の目安
発熱、咽頭炎、結膜炎などの症状が消退したあと、2日経過するまで出席停止となります。
1月1日に症状が消失した場合、1月3日までが出席停止となります。1月4日から登校・登園ができます。
アデノウイルス咽頭炎を疑うのはこんなとき
・小学校入学前の児で、のどの痛みや目の赤みがあるとき
・周囲にアデノウイルスにかかっている子がいるとき
伝染性単核症
概要
主に10代に好発する、発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・肝臓または脾臓の腫大などを特徴とする病気です。
ほとんどはEBウイルス(エプシュタイン・バー・ウイルス)の感染によって起こります。
症状 | 頻度 |
---|---|
発熱 | 94.6% (86-96%) |
リンパ節腫脹 | 89.3% (91-98%) |
咽頭・扁桃炎 | 73.6% (62-97%) |
肝臓の腫れ | 82.1% (50-91%) |
脾臓の腫れ | 62.5% (30-62%) |
発疹 | 31.4% (25-51%) |
まぶたのむくみ(眼瞼浮腫) | 30.4% (12-24%) |
口蓋出血斑(口の中の内出血) | 12.5% (0-20%) |
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/444-im-intro.html
症状
発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹が主な症状です。
発熱は1-2週間ほど続きます。一般的な風邪よりも長い熱の経過となります(6)。
リンパ節は首が腫れることが多いですが、全身のリンパ節が腫れることもよくあります。
治療
伝染性単核症には特別な治療はありません。自然によくなる疾患のため、対症療法が基本となります。
発熱期間が長く、リンパ節腫脹や疲労感の症状も長く続きやすいと言われています。
出席停止期間・登校/登園の目安
解熱し、全身状態が回復したら登校・登園可能となります。
伝染性単核症を疑うのはこんなとき
・10代の小児で、3日を超える発熱、咽頭痛、リンパ節の腫れ(特に首)があるとき
緊急を要する症状
以下のような症状を伴うのどの痛みは緊急を要するため、すぐに病院を受診する必要があります。
緊急を要する症状(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版より)
・人生最悪ののどの痛み
・唾が飲み込めない/よだれを垂らしている
・口が開かない、開きづらい
・声がくぐもっている(ホットポテトボイス、熱いポテトを食べているような声)/嗄声(声が枯れている)
・呼吸困難
・首が回らない
これらの症状があるときには、急性喉頭蓋炎や扁桃周囲膿瘍などの緊急疾患の可能性があります。
のどの腫れが急速に進行し、呼吸ができなくなるなど命にかかわる恐れがあるため、すぐに医療機関を受診しましょう。
のどの痛みの治療
解熱鎮痛薬
解熱剤としてよく使用されるアセトアミノフェン(カロナールなど)あるいはイブプロフェン(ブルフェンなど)には、鎮痛(痛み止め)の効果もあります。
一方で、小児で使うべきでない解熱鎮痛剤としては以下のものがあります。
小児で使用してはいけない解熱鎮痛剤
・アスピリン…ライ症候群との関連がある
・ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)/メフェナム酸(ポンタールなど)…インフルエンザ脳症・脳炎との関連がある
小児に解熱鎮痛剤を使用する際には、アセトアミノフェンまたはイブプロフェンを選びましょう。
トラネキサム酸(トランサミン)
トラネキサム酸は1962年に日本で開発された薬剤で、咽頭炎によるのどの痛みや口内炎による痛みなどによく処方されます。
Dr-KID先生のブログでは、エビデンスは乏しいものの7歳以上の小児の小児の咽頭炎、口内炎においてはトラネキサム酸は有効かもしれない、と述べられています。
薬以外の治療
UpToDate(お医者さん版 Wikipedia)には、のどの痛みに対する薬物以外の治療として以下が推奨されています(7)。
・飲み物を飲む(冷たいもの or 暖かいもの、例えば蜂蜜入りのお茶など(*1))
・アイスクリーム、アイスキャンデーなどを食べる
・氷を舐める
・飴玉を舐める(5歳以上に限る(*2))
・温かい塩水でうがいをする(6歳以上に限る(*3))
*1 蜂蜜は1歳未満の児にはボツリヌス症の恐れがあります
*2 飴玉は4歳以下では窒息の恐れがあります
*3 5歳以下はうまくうがいができないことが多いです
推奨されない治療としては、以下をあげています。
以下の治療は、プラセボよりも効果があるという根拠に乏しく、アレルギーなどの副作用のリスクがあるため推奨されません
・薬用トローチ
・喉スプレー
・薬用洗口液
まとめ
のどの痛みをきたす病気として、「溶連菌性咽頭炎」「アデノウイルス咽頭炎」「伝染性単核症」を解説しました。
これらの病気は発熱期間が長いわりに有効な治療も少ないため、悩ましい病気です。
しかし、これらの疾患についての知識があれば、ホームケアにあたっての安心材料になるのではないでしょうか。
また、薬物治療も含めた自宅での治療についても記載しました。
のどの痛み自体は風邪でも起こる身近な症状のため、参考になるかと思います。
参考文献
- 伊藤健太・著、笠井正志・監、小児感染症のトリセツ REMAKE. 金原出版, 2019: 169-174
- Stanford T. Shulman et al. Clin Inf Dis 2012; 55(10): e86-102.
- 小児科臨床 2021 vol 74 増刊号
- UpToDate Pathogenesis, epidemiology, and clinical manifestations of adenovirus infection
- 国立感染症研究所 アデノウイルス解説ページ
- 国立感染症研究所 伝染性単核症とは
- UpToDate Acute pharyngitis in children and adolescents: Symptomatic treatment